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臨床工学の視点から医療の安全と質の向上を目指す

開発途上国における医療機器に関する安全と質の向上に貢献したいとの想いから医療支援などを行い、医療機器管理システムと医療機器教育システムを併せもつCeTrax(シートラックス)を開発した” 稲垣 大輔 ”さんに、医療機器管理の現状今後の事業の展望などを伺いました。

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開発途上国の医療機器の管理支援を始めたきっかけはなんですか?

幼少期に遡ります。テレビで、開発途上国(以下「途上国」)の子ども達に医療が行き届いていない映像を観て、漠然とですが、子供ながらに先進国である日本にいる私たちとのギャップを感じていました。

その後、医療を通して何かを変えたいとの想いから、ジェネラルかつ専門的に医療に携われることができる臨床工学技士に魅力を感じ、臨床工学の道に進みました。

途上国の医療に興味のあった私は、大学三年生の時にNPO法人東京労働安全衛生センターがベトナムで実施している「メコンデルタ研修」(※)に参加しました。その時、ベトナムのカントー地域にある病院で見た光景が衝撃的で忘れられません。

※アジア各国の参加者が、農村や中小企業の安全・健康・環境プログラムを企画運営して、地域開発に貢献する研修。

待合室は人で溢れていて、床に寝ている人もいました。救急救命室では、窓が開けっ放しで、虫が入ってくるような状況。医療機器も古く、汚い状態で乱雑に置かれていました。

医療職種それぞれに役割があると思いますが、医療機器の専門家である臨床工学技士も役に立てるのではないかと強く感じました。

医療機器

<途上国で放置された医療機器>

幼少期にテレビで観た途上国の病院とはまた違った状況でしたが、日本とは全然違う医療環境を目の当たりにして、改めて自分ができることを支援をしていきたいと思いました。

そこから、臨床工学技士になった後を見据えて、いろんな方との人間関係を構築していき、そのことが後のカンボジアでの病院支援に繋がっていきます。

その後は、毎年、途上国支援に行かれているんですよね。どのような形で支援に取組まれているんですか?

プロジェクトでの参加もありますが、基本的には一個人のボランティアとして、有給休暇を取得して、医療支援を行っていました。臨床工学技士になった1年目は、ツテが全くありませんでしたが、途上国で医療支援をしたいと発信し続けたこともあり、知り合いの紹介でカンボジアの透析クリニックに支援に行くことになりました。

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日本と途上国での医療における違いを実感した出来事はありますか?

一番は、お金がないと医療は受けられないということをすごく実感しました。

日本の透析治療は、一般的に1回4時間、週3回ペースで行い、人工腎臓(ダイアライザ)は毎回新しいものを使用します。公的制度を利用すれば、自己負担があまり発生しない場合がほとんどですが、途上国では、お金を持っているかどうかが、生死に関わってきます。

例えば、お金がある人は週3回ペースで透析治療を実施でき、毎回、新品のダイアライザを使用できる一方で、お金がない人は週1回、リユースした人ダイアライザでしか透析治療を受けられない実態があります。

また、透析治療では、体内の水分と電解質をバランスをコントロールすることが重要になります。特に、カリウム濃度は重要であり、健常者では正常範囲:3.5-5.0Eq/Lになりますが、カリウム値が高値になると心停止のリスクに繋がります。

日本では透析治療後には、3.0-4.0Eq/Lの範囲内に収まるように透析が実施されています。(参考:https://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2009/p048.pdf

しかし、カンボジアでは透析治療の回数が少ないことで透析治療前にカリウム濃度がいつ心臓に不調をきたしてもおかしくないような数値の方もいますし、透析治療を実施しても、ダイアライザを洗浄して使いますことにより、透析効率が落ちて、あまり数値が変わらない場合もあります。

途上国の透析治療はこのような状態であり、急な心停止により、いつ亡くなってもおかしくないような状況を幾度も目の当たりにしました。

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<ダイアライザ洗浄装置>

GAPファンドプログラムの採択に至った経緯を教えてください。

途上国への医療支援を行う中で、課題が全然解決されてこない現状を見てきました。この本質的な課題は何であるか。この課題を解決するためのイノベーションは何であるのかの研究を行いたいと考えるようになりました。

そして、医療支援をして帰国する飛行機の中で、改めて「この現状をアカデミアの世界から変えたい」と思い立ち、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科(以下「SHI」)に進学することに至りました。

大学院1年生のときに、大学院の同級生から紹介を受けた「東大EDGE-NEXT起業家育成プログラム」に臨床工学技士である岡山大学の平山隆浩先生と参加して、途上国支援をどうしたらより良くできるのか、リサーチ、アイデアブレスト、ブラッシュアップをしていきました。

その頃から、アカデミアの世界から変革を起こすのには時間がかかると感じはじめており、イノベーティブな取組を事業化できないかと考えていました。東大EDGE-NEXTと並行して、経済産業省とJETROが主催する次世代イノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator 2020」にも個人で参加し、各方面でご活躍されている方々からアドバイスをいただき、自分の想いを具体的なプランへとブラッシュアップしていきました。

島岡教授(SHI)には、大学院1年目の時から色々とご相談にのっていただきましたが、大学院2年目になり、T-UNITE(※1)にSHIが参加し、大学推進型のGAPファンドプログラム(※2)に応募が出来るようになった時期だったことから、同プログラムへの応募を勧められ、応募した結果「開発途上国における医療機器管理/教育システムの開発」が採択され、約1,000万円の事業資金を得ることができました。

※1 T-UNITE:SHI等を共同機関とし、48大学・企業等を外部協力機関とするプラットフォーム。
※2 大学推進型のGAPファンド:T-UNITEによる大学発ベンチャー創出を促進するための企業活動支援プログラム。

SHIでの学びが事業化に活きているんですね。SHIはどうでしたか?

とてもよかったです。いい意味でイメージしていた大学院とは違いました(笑)。SHIに進学してみると、データを取り扱うこともあれば、人文科学系の講義もあるなど、公衆衛生は守備範囲が広いなと実感しました。教員も色々な専門や個性を持っており、とれも面白い講義ばかりでした。

学生は社会人が中心のため、グループワークの際には、お互いの強みを活かしてサポートし合えたのも良かったです。本当に素晴らしい同級生やアルムナイ、大学関係者が揃っており、恵まれている環境で学びを深めることができました。

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<神奈川県立保健福祉大学 殿町キャンパス>

途上国の医療現場を肌で感じたからこそ、現場での課題感を踏まえて、CeTraxに搭載した機能はありますか?

途上国のバイオメディカルエンジニアの中には、医療機器の専門的な知識についてあまり知らない方もいるので、入力ミス防止などを念頭に入れつつ開発しました。例えば、医療機器それぞれについている固有番号(シリアルナンバー)の入力を間違えると、最終的にはどの製品なのか追跡できなくなるといったこともあります。

そこで、CeTraxでは、画像認識技術の活用により、医療機器データベースから対象の医療機器を自動検索し、システムへ自動入力されるシステムの構築を予定しています。これにより、確実に入力が行われ、現場の負担を減らすことができます。

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途上国の医療現場ではスマートフォンを医療従事者が持ち込むケースが多いんですよね。そのことも画像認識機能を搭載したことと関係はありますか?

そうですね。現場にスマートフォンがあるからこそ、クラウド管理が重要だと考えました。さらに、教育コンテンツを自分のスマートフォンで視聴できるという利点もあります。

日本の医療現場ではPHSからスマートフォンへと業務連絡端末の置き換えが進んできています。置き換えがもっと進むと、日本でもCeTraxの需要は高まってくると考えています。

管理システムに加えて、教育システムまで開発したのは、なぜですか?

カンボジアに医療支援に行った際に、現場の方が操作方法や点検方法について全く知らなかったということに衝撃を受けたことが発端です。この背景を考えてみると、病院内での情報の共有不足が課題でした。

具体的には、医療機器の納入時に、現場の方に導入機器に関する説明はありますが、納入時に説明を受けた人からの情報の共有がされず、その人しか使えない状態になってしまいます。さらに、その方が異動や転職をしてしまうと、その機器が使えないという現状になってしまいます。

せっかく医療機器があっても不適切な管理や使用方法がわからず、放置されているのは辛い状況です。医療機器が網羅されていて、継続的に使える教育システムがあれば「現場のわらかない」をなくすることが出来ると思ったのが教育システム開発のきっかけです。

3月にMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の機能のみをもつプロダクト)の実証実験を実施するとのことですが、具体的に何を行うのですか?

現場の病院で実際に使用してもらい、管理システムの有用性、教育システムにおける動画の評価や追加ニーズなどを洗い出します。

管理教育システムは、ラオス、タイ、ベトナムで実施する方向で調整していました。私も現地に行く予定でしたが、COVID-19やウクライナ問題などもあり、オンラインでの実施に変更しました。現地側では、手順書やオンライン説明を基に入力、登録し、管理システムを評価してもらう予定です。

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日本でもCeTraxの需要はありますか?

臨床工学技士が配置されているのは大病院が中心で、中小規模の病院や診療所ではほとんど配置されていないような状態です。また、医療機器の管理システムを導入しているところは、ほとんどがオンプレミスです。そのため、日本国内でも、医療機器の管理について悩まれている病院はあり、そこをサポートしていく必要性はあり、需要はあると考えています。

また、中小規模の病院等では、年に数回しか使用しない医療機器もあったりするため、いざ使用するときに使用方法などで不安要素があることから、教育システムについても需要はあると思います。
実際に日本の病院でも実証を進めるべく、既に特定の病院と具体的な調整を進めています。

今後、神奈川県内の病院を中心にアンケート調査を実施する予定です。そこから見えてくる実情を踏まえて、サポートしていきたいと考えています。

CeTraxの事業化はいつ頃になりますか?

現在は(※)、都内の大学病院に所属していますが、今年3月末で退職して、SHI発のベンチャー企業として起業する予定です。5月頃には法人登記を完了できればと考えています。この分野はまだまだエビデンスの蓄積がされていないため、エビデンスの構築をしていく必要があり、研究・開発・提供の3軸をメインに大学発ベンチャーとして、起業したいと思っています。

初年度は、国内外合わせて10施設導入を目指します。その後は、蓄積されたデータを基に、アジア・アフリカ向けの医療機器開発を行うことを視野に入れています。この背景としては、日本の医療機器はとても優れていますが、現地の需要を踏まえるとオーバースペックな部分もあり、費用もとても高価であるため、現地にとって本質的なニーズを捉えた医療機器開発を行っていきたいと考えています。
※2022年3月インタビュー実施

稲垣さんはSDGsを意識されて活動されていますが、特に意識されているのゴールは何ですか?

医療に携わっている身としては、途上国の現場を見てきたこともあり、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」の実現は特に重要だと思っています。

「医療にアクセス出来ている = 十分な医療の提供を受けている」ではないと考えています。すべての人に安全な医療を提供できるように、ゴール3の実現はとても重要です。先進国と途上国の間には物凄く隔たりがあり、その差を埋めることも先進国の役割であると考えており、私は医療という切り口で貢献していきたいと思っています。

これから一歩を踏み出そうとしている方へのアドバイスはありますか?

趣味を頑張る、YouTubeを見て学ぶ、友達と旅行するなど、何でもやってみるのが良いと思います。まずは、自分の知らないことを知っていくことが重要です。そして、どの分野であろうと自分が興味のあることを突き詰めていくことが大切です。

何かこうしたほうがいいのではないか、というちょっとした想いがあるのであれば、何もやらずに日々を淡々と過ごすより、小さな一歩を踏み出してみてください。

そのことで見える世界も変わってくると思います。

■ 稲垣 大輔
株式会社Redge CEO
臨床工学技士。修士(公衆衛生学、神奈川県立保健福祉大学)
2021 – 2022年 東京大学 Japan Biodesign フェロー
神奈川県立保健福祉大学 フェロー
ジャパンヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC2022) 最優秀賞受賞(アイデア部門)
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