海の豊かさを守りたいけれど、お寿司も大好き!? そんなプロサッカー選手・長谷部誠さんが勧める SDGsとの向き合い方とは?
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海の豊かさを守りたいけれど、お寿司も大好き!? そんなプロサッカー選手・長谷部誠さんが勧める SDGsとの向き合い方とは?

「10年後の未来をよくしたい!」という思いで活動している人たちにお話を聞く、「SDGs People インタビュー」。今回は、サッカー日本代表キャプテンとして3大会FIFAワールドカップに出場し、37歳となった今も現役のプロサッカー選手としてドイツ・ブンデスリーガで活躍し続ける長谷部誠さんにお話を聞きました。


「環境先進国」といわれるドイツで約15年生活し、日本ユニセフ協会大使としての活動もされている長谷部さん。実はSDGsについてはよく知らなかったそうです。でもだからこそ、多くの人の参考になりそうなSDGsとの向き合い方と、日本人が持っているポテンシャルについて語ってくれました。ぜひご一読を。

(聞き手:井口 雄大)

当たり前にできていたこともあれば、気づけてすらいないこともあった。だから、自己嫌悪に陥りました。(笑)

―SDGsをご存知でしたか?

正直、言葉を聞いたことがある程度で、恥ずかしながらその中身についてはほとんど知らなかったですね。この話をいただいてから意識して生活していましたが、ドイツの街中でもほとんど目にしませんでした。

ただSDGsの存在を知って、17の目標を読んでみると、自分がユニセフで活動していたことがたくさん入っていました。「4 質の高い教育をみんなに」とか、「6 世界中に安全な水とトイレを」とか「1 貧困をなくそう」とか。知らなかっただけで、自分がやっていたいろんなことがSDGsとつながっているんだと思いました。

―そうなんです。SDGsにはみなさんがすでに取り組んでいることも、たくさん入っているんです。

でも、当たり前に生活の中で気にしていたこともあれば、逆に、全然気にできていなかったこと、気づけていなかったこともたくさんありました。だからそういう意味では、自己嫌悪に陥りましたね。

―え、自己嫌悪ですか???

15年前に来たときから、ドイツではエコバッグ、ペットボトル、ビンのリサイクルが定着していました。たとえばペットボトルやビンは、こちらでは買うときの価格に上乗せされていて、返したらお金が戻ってくるというシステムです。だから、その辺の感覚はドイツで生活していれば自然と身につくものではあったんです。

ただ、たとえば12番目のゴールに「つくる責任 つかう責任」というのがあると思うんですけど、これは食事に関しても言えると思っていて。「食べ残し」ですね。自分はいろいろ食べたいタイプなので、外で食べるときに注文しすぎてしまうことがあります。でもサッカー選手は体が資本なんで、食べすぎてもよくないんで残してしまうこともあって。そういうところはできていなかったな、と自己嫌悪に陥る部分ではありました。

―ということはSDGsを知ることで改善が、、、

そうですね、すごく意識するようになりましたね。買い物をもそうですし、レストランで食事を頼むとき、今はコロナでテイクアウトになりますが、もうとにかく少量から!(笑)家族ともその辺は気をつけていこうと話しています。あと、子どもがもうすぐ4歳になり、だんだん言葉がわかるようになったので、「電気はこまめに消しなよ」とか「食事はできるだけ残さないようにしようね」という話をしています。

ドイツは環境教育が進んでいますが、学校だけではなく家庭から始められることでもあるので、少しずつ意識しながら、段階を踏んでゆっくり、我が家の教育の中でも取り入れていきたいな、と思っています。この手のものは、押し付けではなく、自然とできるようになることがいいと思うんです。

―確かに張り切りすぎたり、無理しすぎると続かないですね。

僕はSDGsも、自分が取り組んでいるユニセフの社会貢献活動も、誰かに強要されてやるものではないと思っているんです。こういうのって嫌々やっても意味ないと思いますし、本質を理解して自分から行動していくこと、無理のない範囲で少しずつ段階を上げていくことが一番いいやり方だと思っています。そういう意味では、まずは知ってもらうことが大事かなと思います。

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環境先進国といわれるドイツより日本の方が、SDGs達成のためのポテンシャルがあると思う。

―ちなみにご家族以外の方とも、SDGsについてお話しする機会はありましたか?

直接的に話したことはないんですけど、友人でもチームメイトでも、意識している人は意識してるな、と思いますね。そして、こちらの人ははっきり伝えますよね、何事も。特に食べ残しに関しては厳しい!例えば、サッカークラブのビュッフェでご飯をたくさん取りすぎて残していると、しっかり指摘されますね。もったいない、というドイツ語はないんですけどそのニュアンスで、「食べられないんだったら、取るな」とか普通に言われます。それでも残していると、「食べられないんだったら、俺が食べる」という人もいます。あと、車のエンジンをかけっぱなしにしていると、知らない人に運転席の窓をコンコンとされて、「エンジン切りなさい。環境に悪いから。」と言われたりもします。

―やはり環境先進国といわれるだけのことはありますね。

うーん、もちろんできている人はすごい多いんです。意識している人も多い。だけど、全く意識していない人もいる。日本よりも街中にゴミはたくさん落ちているし、その辺にポイ捨てする量も間違いなく日本より多い。でも、そういうところにしっかり取り組んでいる人が多いのも事実だし…。だから一概にドイツはこう、とは言えないかもしれないですね。

逆に、日本は本当に規律性があるというか。僕は環境先進国と言われるドイツに住んでいるけれど、日本ってそれ以上に規律性を持っていろんなことをやれる国だなと思っています。日本の方々が本当にSDGsをもっと知って、本当にこの本質を理解して取り組みはじめたら、すごいポテンシャル持ってるんじゃないかなと思うんですよね。だから、そういう意味では、まずは多くの人に、このSDGsアクションを知ってもらうことが大事ですよね。そしたら日本人や日本という国は、この分野で世界のトップを走れると思いますよ。

漠然と何かしなきゃとは思っていた。やってみたら、自分のためになっていた。

―長谷部さんがすでに取り組んでいたこととして、ユニセフの活動があります。はじめたきっかけを教えていただけますか?

小学校のとき、「ペットボトルのふたを集めて学校に持っていく」ってありませんでした?そこがたぶんファーストタッチというか、初めて社会問題にふれた瞬間でした。で、学校で世界には厳しい環境で生活している人たちがたくさんいる。貧困に苦しむ人がたくさんいるということを習って。自分が日本という国で恵まれた環境で育っているんだな、ということを知って、そういう人たちを少しでも、間接的にでも助けたいなという思いは、子どもながらにずっと持ってきたんですよね。で、飛行機に乗ったときにユニセフのパンフレットを手に取って、マンスリーサポートプログラムというのがあって、毎月いくら募金しようというのを、それがきっかけではじめて。

小さい頃から漠然と持っていたんでしょうね。貧困とか、そういうものに対して何かしたいという思いは。漠然と何かしなきゃな、とはずっと思ってて。そこではじめてみようかと思えたのは、偶然パンフレットがあったからですね。

―なるほど。でも、それまでもユニセフの存在や他の募金についてご存知だったかと思います。そこで動き出せたのはなぜでしょうか?

僕自身の環境の変化もあると思います。プロのサッカー選手になって、お金をたくさんもらうようになって、その中で、これまで以上に何かしなければと思いはじめたタイミングだったんだと思います。たぶんユニセフへの寄付を始めたのは2007年くらい。ちょうどドイツに行ったタイミングだったんです。ドイツは本当に多国籍というか、移民の方もすごく多いインターナショナルな国なんで、そういうところで生活していて、感じるところは多かったと思います。

あと、ヨーロッパの選手たちの社会貢献活動を見ていると、みんながその活動をオープンにしているというか。日本だと足長おじさん的な美学があったりしますが、こちらの人はそうではなくて、自分の影響力を使って社会貢献につながる活動を発信している選手が多くて。その影響もありますね。

―実際に始めてみて、よかったことはありますか?
うーん、それはもう本当に「自己満足」ですね。結局こういう活動しているのって、別に誰かに褒めてほしいわけでもないですし。自分が厳しい状況にある子どもたちのために何ができるか、と考えたときに、それをサポートすることに自己満足を感じています。

環境問題やSDGsへの取り組みもそうなんですが、たとえば自分ひとりがペットボトルをしっかりとリサイクルするところに持って行くことで世界が変わるかというと、世界はそんなには変わらないと思うんですよ。でも、ひとりひとりの小さな積み重ねが、もしかしたらそこにつながっていってるのかもしれないと思うと、じゃあ、それは意味があることなのかな、と思って自己満足みたいな。(笑)そういう意味では、誰かのためにやってるようで、意外と自分のためにやってるな、というのは、こういう活動を始めて思っていることですね。

―ユニセフで難民キャンプに行くのも自分のためになりますか?

そうですね。現地に行くことで、いろんなことを知ったり、感じたりすることができるので、自己満足というか「自分の成長につながる」というのはありますね。

自分はふだん日本やドイツ、世界でいったら経済大国・先進国で生活していますが、そこでは感じられないものを、現地に足を運ぶことでたくさん感じることができます。一人の人間としてそういう経験ができて、すごく考えることも多いので、成長につながっていると思うし、何より世界観が広がりますよね。それはもちろん楽しいし、自分のためになってるな、という感覚はありますね。

―ユニセフは子どもへの支援が中心だと思いますが、子どもたちのこれからについて、いま考えていることはありますか?

SDGsの目標のひとつに、「質の高い教育をみんなに」があると思うんですけど、難民キャンプを訪問させていただいたときに、教育に関してすごく感じることが多いですね。子どもたちの親は、とにかく教育を受けさせて、将来困らないようにさせてあげたい、という思いが強くて。ただ、難民キャンプとか世界の厳しい環境にある子どもたちは、質の高い教育を受けられないわけで、そういう段階から先進国との差が生まれてしまっていることを強く感じます。だから、教育はすべての子どもの権利として、自分たちが整えてあげなければいけないところだと思いますね。

あとドイツもロックダウンで授業がオンラインになってしまって、いろんな問題が生まれています。だから最近特に、このコロナ禍でもしっかりと子どもたちの教育環境を良くしてあげることがすごく大事なことだな、と思ってますね。

―ちなみに、サッカーを通じて取り組んでいることもあるのでしょうか?

みんなでよくやっているのは、サッカー用具のリユースですね。自分たちが使わなくなったスパイクなどのサッカー用品を寄付したり。

あとサッカー界としては「差別をなくす」というのも大きなテーマです。残念ながら、選手間、選手とサポーター間で、人種差別的な行為や発言はたまに出てきてしまうんですが、それに対しては、非常に厳しく対応しています。たとえば観客が人種差別的な行為をしたら、そのサポーターは永遠にスタジアムに入れないようにするとか。差別というものに対してサッカー界全体で毅然とした態度をとるようになっています。

また「5 ジェンダー平等を実現しよう」にも取り組んでいますね。女子サッカーのステータスを向上させるようにしているし、それぞれのクラブも女性の社員を引き上げようと努力していますね。

自分の中で矛盾や葛藤を感じながら、楽しく前向きにやるためのバランス感覚をみつけたい。

―2030年まで10年を切りましたが、今後どんなことに取り組んでいきたいですか?

個人的には、やはり「ふだんの生活の習慣」だと思っています。自分の中で習慣として、少しずつ段階的にいろんなことに取り組んでいきたいな、というのがあって。たとえば先ほども話したように「食べ残ししない」とか。本当に小さなことかもしれないけど、そういうことも含めて、少しずつ段階的を踏んで取り組んでいきたいなと思っています。

ただ難しいのは、たとえば「14 海の豊かさを守ろう」ってあるじゃないですか?でも僕、魚やお寿司が大好きなんですよ。(笑)だからそこは自分の中ですごい葛藤というか矛盾を感じていて。個人的にはそこのバランス感覚をみつけたいな、というのはありますね。ゼロにするわけではなくて、自分の中での矛盾や葛藤を感じながら何ができるか。ストレスにならない範囲で、楽しくやる、前向きにやるっていうところのバランス感覚をしっかり見つけるのが、個人的にはひとつのテーマかなと思っています。

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―SDGsの認知は広がってきた。けれどもっと多くの行動(アクション)が必要。という思いから、国連は「行動の10年」というキーワードを掲げています。どうしたら、もっとみんなのSDGsアクションが増えると思いますか?

上から目線で「こうしよう」というのはあんまり好きじゃないですけど、やっぱり自分だけ良ければいいとか、いま自分が生きているこの時代だけ良ければいい、という生活をしてていいのかと思うべきだ、というのはあります。子どもたちや、これから生まれてくる子どもたちが生きる未来の世界がより良いものに、いま自分たちが生活している世界よりもより良いものになっていたら、それは素晴らしいことだと思うし、そこにはいま生きている自分たちの、小さな小さな取り組みがつながっていくんだと思うので。

誰かに強制されるわけでもなく、本当に自分のペースで、少しずつこういうことを気にかけて生活していってもらえたら未来も変わると思うし、みなさんの生活も、人間性も、より良いものに変わるんじゃないかな、と思いますね。

―インタビューを終えてー

「Sustainable」「持続可能」ということを考えたとき、いつも思い出す言葉があります。「続けられないものは、続かない。」数年前、フランスの農家の方が何気なく言った言葉です。当たり前といえば当たり前ですが、仕事でも、勉強でも、トレーニングでも、そしてSDGsのような社会的に意義のある問題でも、「続けられたら素晴らしいけれど、続けるには負荷が高すぎる」をついついはじめてしまう。そんな経験はないでしょうか?そして、続けられなかった、という結果や苦い思い出が、別の何かに取り組む際にふと蘇り、気持ちに、行動にブレーキがかかることはないでしょうか?

長谷部さんの考え方には、無理がありません。「ストレスにならない範囲で」「少しずつ」「段階的に」「ゆっくり」「前向きに」「小さなことでも」「習慣として」「自分のペースで」「自分のために」そのお話の中にSDGsの専門家ではない私たちの参考になるキーワードがたくさん詰まっていました。

2030年まで、あと10年を切りましたが、日本ではいくつかの目標を除き、そのほとんどが達成されていないのが現状です。なかなか改善されない状況に苛立つ方も、焦っている方もいらっしゃると思います。でも、だからといって、無理をしたり、頑張りすぎても、それはきっと「持続可能」な取り組みにはならない。長谷部さんのように、ひとりひとりが自分のペースで、少しずつ未来につながる何かに取り組んでいけたら。その取り組みを可能な範囲で増やしていけたら。それは一見、地味に思えるけれど、持続可能な社会の実現へのいちばんの近道かもしれない。そんなことを思いました。

●長谷部誠
プロサッカー選手。1984年1月18日生まれ、静岡県出身。O型。2002年、浦和レッズに入団。『Jリーグ優秀選手賞』や『ニューヒーロー賞』を受賞する活躍をみせる。2006年、日本代表初選出。2008年、ドイツ1部リーグへ移籍。2010年より8年間にわたり日本代表のキャプテンを務める。東日本大震災の被災地支援等を経て2016年、日本ユニセフ協会大使就任。エチオピアや難民キャンプを訪問し、その様子を広く紹介。現在はアイントラハト・フランクフルトでプレー。
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